あなたの志し、低過ぎないですか?

緊急事態宣言に当たって人との接触を80%減らす取り組みについては批判もある。97%いや98%減らさねばならないと主張する識者もいる。こういった数字はおそらく科学的なシミュレーションに基づいたものなのでしょう。80%にしろ98%にしろ、そういった数字は政府が最終的に感染者数の減少を確信することができる境界線であると考えられる。でもその数字をそのまま国民に垂れ流すことに意味があるのだろうか。自粛要請によって国民の協力を促すレベルの緊急事態宣言および接触率減少目標によって、いったいどれだけの数字を最終的に達成できると考えているのでしょうか。まさか80%と言えば国民が80%到達を目標に頑張ってくれると本気で期待しているわけではないでしょうね。それは無理ですよね。なぜかって。それは戦略が間違っているからです。同語反復を指摘される前に先取りして回答させていただくと、実際に必要とされる数値目標と、国民に到達を促す数値目標は異なるべきであるということです。

東国原英夫氏がワイドショーのコメンテーターとして「100%にしなきゃ無理です。100%接触減少にして、やっと80%減少なんですよ」と述べていた。至極ごもっともな指摘をされていました。東国原氏の指摘をボクなりに言い換えると、政府が考える目標数値が80%であるならば、国民には100%が目標数値だと「ウソ」をつくべきだったということです。国民に100%が目標数値だと言ったところで、該当する都府県の全ての国民が100%を達成することなど所詮無理に決まっている。必ず要請を裏切って他者との社会的接触およびそれがもたらす身体的接触へと至る人が出てくるものだ。東国原氏のコメントはその想定を見事に指摘したものだった。

コンビニやスーパーといった店舗等は数ヶ月に1度の棚卸し作業を行う。実際に店内に陳列されている商品の総数と、帳簿上の金額が一致しているかどうかを確認する作業です。理想は1円たりとも違わずだが、そんなことは有り得ない。必ず商品総数は帳簿上の理想の金額に満たないはずだ。コンビニやスーパーで考えられるのは「万引き」による商品欠如。さらには従業員による窃盗というのもある。日本では分からないが、アメリカのビジネス教科書ではこれを"employee theft"と説明している。ビジネス世界では従業員が商品を万引きするのが想定されているということです。これくらいの売上なら、これくらいの従業員窃盗があるだろうと見積もられている。それを想定した上で利益計算をするということらしい。言ってみれば、1つの危機管理でしょう。

定期試験で60点を取ろうと考えれば、普通は60点を取れるように勉強する。でも実際はやっとのことで50点前後。要するに60点取りたかったら60点を取るような勉強をしていてはダメということなんです。80点取るつもりの勉強をして、やっと60点に手が届くということ。80点や90点を取りたいのであれば、80点や90点を取るような勉強をしていてはダメなのです。100点を目指してやっと80点や90点なんです。目標数値と、その目標数値に至る戦略は異なるということなんです。

こういった戦略は勉強に限ったことではありません。野球を例に考えてみましょう。次の打席に立つ前に待機する場所いわゆるネクストバッターズサークルにおいて、選手はウェイトリングという重りをバットに装着して、実際にバッターボックスで振るバットよりも重くして素振りの練習をします。負荷というやつです。練習では負荷をかけて、実際の試合では負荷がないから軽く感じる。そういうことです。アスリートが筋力トレーニングのときに重量負荷をかけてトレーニングすることで筋肉を鍛えるのも、鍛えられた筋肉が実際の試合において最高のパフォーマンスへと自分を導いてくれるからです。80点を取るために100点を取る勉強をするのと同じ思考です。

学生やアスリートが当たり前のように遂行している負荷トレーニング。この原理は今回の接触率減少目標数値に関しても例外ではない。定期試験あるいは試合で80%を導き出さなければならないとき、国民に向かって80%を目指してくださいと言ってみたところで結果は知れたものです。本気で80%を目指すのであれば、国民には100%を要請するべきでしょう。東国原氏が言いたかったのは、そういうことなんです。志しは高いに越したことはない。あくまでも志しなのだから。