武士道は日本文化か

海外に行くと必ず日本と異なる点ばかりが見えてきますよね。カルチャーショックを体験するわけですが、カルチャーショックの原因は自分の常識とは「違う」ことに対する違和感です。でも、ある一定のラインを越えると、今度は逆に、日本と似ている点が目に付くことがあります。「違うなあ~」的な感覚から「同じだなあ~」的な感覚への移行が生じるのです。異文化に接していると、ほとんどの人は日本と異なる点ばかり見ようとしているけど、もっと冷静に考えれば、実はそんなに違わないってことに気づくこともあるのです。なあんだ、表面的には違うようだけど、実は同じなんだあ、という第2のカルチャーショックを体験すると、世界がより立体的になる。

新渡戸稲造という人物をご存じかと思います。昔の5千円札に顔が載ってた人ですけどね。「武士道」で有名な人です。『武士道』って本もあります。最近また読み直されているみたいなんですけど。ボクも読んでみました。結構勘違いされてますが、この『武士道』という本は元々は日本語で書かれたものではないという事実。それから、日本の独自性を描写したものでもないという事実。新渡戸稲造って『武士道』を書くぐらいだからスゴく大和魂の強い人だと思われているのですが、全く逆で、この人は実はクリスチャンで、奥さんはアメリカ人なのです。『武士道』という本も新渡戸稲造アメリカ在住時に英語で書いたのが最初なんです。

あるときドイツかどこかの法学者に「日本は学校で宗教教育がないのに、日本人はどうやって道徳教育をするのか?」と質問されたのが切っ掛けだったそうです。当時の欧米諸国はキリスト教教育から道徳教育を受けていたという背景があります。でも日本にはそのようなものがない。

そこで新渡戸稲造が思いついたのが武士道なのです。日本人にとって道徳教育に当たるのは武士道なのではないかと考えたんですね。欧米には騎士道精神というものがあります。日本には武士道精神というものがあります。なんだ、実はそんなに欧米と日本に違いはないじゃないか、と新渡戸稲造は考えたのです。新渡戸稲造は欧米人に向けて「欧米はキリスト教教育で道徳を、日本は宗教ではなく武士道で道徳を、だから同じなんです。欧米は騎士道で、日本は武士道、だから同じなんです」と主張したそうです。実際、騎士道と武士道には共通点が多いです。

武士道は日本人特有の精神だ、などと勘違いして解釈している人がほとんどだけど、ホントは武士道は、多少は似て非なるもの的な点はあるとはいえ、実は騎士道との共通点を、欧米との共通点を強調するために書かれた本だったのです。 

日本人らしさとか日本人特有とか、結構日本人はそういうのが好きだけど、実は欧米とたいして変わらない。そんな見方ができるようになると一歩前進なのかなあと感じました。違いばかりに目を奪われず、似ている点に留意する感覚というか感性というか、そういうことにも注意すると、少し賢くなるような気がしました。